はじめに
中国の公的医療保険制度は、上記3つから構成されている。
(厳密に言うと、2016年1月に国務院から「都市住民基本医療保険制度」と「新型農村合作医療制度」を今後統合する旨が発表されたので、2つから構成されているとも言える。しかし、未だいくつかの省市では統合完了していないので、上記では3つとしていること、ご了承ください。)
上記スライドを見ていただければ分かる通り、3つのうちで財源が最も豊かなのは「都市従業員基本医療保険制度(左端)」だ。
上海市の平均月収が約9,500元、年収換算すると約114,000元なので、これに加入している人は「114,000元×8.0%=9,120元」が自身の医療費として積み立てられている。農村戸籍の方と比べると、積立財源には大きな差が生じている状況だ。
公的医療保険の2020年上半期データが発表されているので、今回はそれを紹介したい。
2020年上半期 医療保険財源状況
【収入面】
昨年同期比で、医療保険収入はマイナス9.8%と発表された。
これだが、新型コロナウイルス対策として、中国政府が2020年3月から企業負担分(一部)の納付を免除したことが原因の1つとして挙げられる。
その他の原因として、「新型コロナウイルスによる景気悪化→企業のコスト/人員削減→個人の収入削減」も挙げられる。実際に医療保険加入者数は、2020年Q1にマイナス成長へ転じ、2020年Q2は更に増えてマイナス13.2%だった。
【支出面】
昨年同期比で、医療保険基金の支出は0.9%減少だった。
この原因には色々な要素が含まれる。
・新型コロナウイルス流行により、医療機関へ行くこと自体を避ける患者が増えたため
・2020年上半期には50品目(一般名)を超える医薬品の帯量購買(VBP:VolumeBased Procurement)が実行されたため
・医療保険の適正使用へ向けた監督管理強化策が効果を得たため
支出が0.9%と微減だった原因として、新型コロナウイルス対応に費用を要したことが挙げられる。2020年7月19日までに、全国の新型コロナウィルス診断(疑いを含む)患者に掛かる医療費は18.47億元、医療保険支出は12.32億元だった。
また、現在までに全国30都市でパイロット試行されているDRGの運用に、支出削減の期待が寄せられている。DRGにより、医療機関は利益を得るために自主的にコストを下げ、入院日数の短縮や誘導性医療費支出の減少等を行うことになると考えられているためだ。
今後も続く医療費抑制策
VBP・NRDL国家談判といった薬価抑制策はいつまで続くのか?
上述したとおり、医療保険財源が【収入面】で大幅に増加する見込みは少なく、今後も【支出面】での改善が続くと考えられる。
また将来的に、医療技術/設備の進化・医療サービスのモデルチェンジなどにより、医療費が増加することは避けられないと考えられる。また、現在も不合理な診療・投薬・検査などが行われており、これらの行為も医療費を増加させている要因となっている。
医療費抑制策が今後も続く中、自社の既存品・将来パイプラインを充分に考慮した適切な施策が、中国における製薬会社に求められている。
以上
この記事は各種公開情報・ibg経験等を基に、ibgが内容を作成したものです。