はじめに
2020年8月26日、国家医療保障局より《健全な従業員基本医療保険外来共済保障体系の構築に関する指導意見(パブリックコメント)》が発表された。
現在の公的医療保険制度の内容を変更しようとするものだが、いきなり今回発表された変更内容(案)を説明しても分かりづらいので、先ずは現在の公的医療保険制度がどのようなものになっているのかを振り返りたい。
中国の公的医療保険制度(現状)
中国の公的医療保険制度だが、上記の3つで構成されている。
「都市住民」と「新型農村」は、2016年1月の発表で今後は「城郷居民基本医療保険制度」に変更・統合されていく旨が発表されたが、まだ全国的に統合が完了していないので、上記スライドでは3つの構成で記載していることを、注意いただきたい。
上記3つの大きな違いは、財源収入の差だ。
「都市従業員」の財源は加入者賃金の8%以上となっており、企業によってはそれ以上の医療保険費(企業負担分)を払っている会社もある。
少し古いデータで恐縮だが、2015年の基金支出総額は以下となっている。
・都市従業員:6,697億元
・都市住民+新型農村:4,430億元
加入者数の差を考慮すると、財源及び1人あたりの支出額の違いが読み取れる。
都市従業員基本医療保険制度の償還ルール(現状)
今回医療保障局から発表されたパブコメの対象である、「都市従業員基本医療保険制度」の内容・現状を紹介したい。
上記スライドのとおり、入院に重きを置いた制度となっている。つまり基金給付限度額(各地域の平均年間賃金の約6倍)を超えた分から、患者さんの自己負担が生じるというルールになっている。
一方、外来の場合はそうではない。上記スライドの赤色個所に注目いただきたいが、外来だと地方認可されたものだけ基金(社会保険)が使われる。つまり外来の場合は、基準額を超えると、患者さんの自己負担がかかるという訳だ。
今回発表された変更内容(案)
今回の変更内容(案)だが、先程説明した上記スライドの赤色個所に関するものだ。
【変更点1】
基金(社会保険)、外来時の使用対象範囲を拡大。
・今回の発表文書では、「治療周期が長く・健康損害が大きく・経済負担の重い、慢性病・特殊疾病の医療費を、基金からの支払対象へと拡大する」と記載されている。
・つまり、高血圧・糖尿病といった慢性病治療について、「都市従業員基本医療保険制度」に参加する3.3億人の自己負担分が軽減されるという訳だ。
【変更点2】
基金(社会保険)、使用対象者を拡大。
・「都市従業員基本医療保険制度」の加入者は、企業に勤務する都市従業員+その定年退職者だ。今回のパブコメでは、加入者本人だけでなく配偶者・父母・子供も対象にする旨が発表された。
・また医保定点の医療機関だけでなく、定点Retailing薬店で購入する医薬品・医療消耗材・小型医療器械にも適用拡大されると言われている。
【変更点3】
基金(社会保険)、外来時の支払比率を最低50%に変更。
・発表文書には明記されていないので、これは私の予想が入るが、「上記スライドの赤色個所(基金分)の支払比率を、個人口座分よりも多くしなければならない」という内容だと考えられる。
・ちなみに発表文書には、「定年退職者に対してより傾斜のある待遇で支払う旨」が明記されている。
上記1~3を纏めると、「都市に住む方々の外来時の医療費負担を軽減し、都市従業員基本医療保険制度の財源を活用します!」という変更(案)と言える。
製薬企業への影響(ibg仮説)
以下のような影響が挙げられる。
・各地方のリスト収載活動に関する計画の見直し(上記変更点1より)
・基金の使用対象者拡大によるパイ・チャネルの拡大(上記変更点2より)
VBPやNRDLルール改定といった薬価抑制策により慢性病薬の薬価が全体的に下がってきている中、患者さんへの保険償還ルールが見直されようとしている。この発表はまだパブリックコメントだが、慢性病薬を持つオリジナル薬メーカーにとって、上記以外にも新たなプロモーション戦略の選択肢が増えるのではないだろうか。
今回発表されたパブリックコメントだが、意見提出は2020年9月6日までとなっている。その後、正式版が発表されるだろう。
また2021年から実際の運用が始まると言われているDRGs(DiagnosisRelated Groups)の動向も、公的医療保険制度と関わりを持つ。
1つの側面だけでなく様々な視点から、引続き全体像を掴んでいきたい。
不明点等ありましたら、ibg西岡まで問い合わせください。
以上
この記事は各種公開情報・ibg経験等を基に、ibgが内容を作成したものです。