はじめに
中国市場での健康関連消費は継続して拡大しており、特に90後(中国語で90后ジョーリンホウ)と呼ばれる30歳以下の世代に対するオンラインでの健康関連消費喚起が熱を帯びている。オンラインでの健康食品の購入者のうち90後が占める割合は25%以上にも上るという報告もあり(央视网)人口比率を考慮に入れたとしても、「中高年が体調不良のために健康食品を購入する」という従来のイメージとは別の動機での消費がかなりの規模に成長していることが伺われる。
90後という世代が抱える心理的不安
90後とは、中国経済の急速成長が始まった1990年以降に誕生し、2010年ごろに大学入学した世代で、2015~2020年にかけて社会人の仲間入りを果たしている。中国高度経済成長の90年代の混沌期を勉強一色で過ごし、2010年ごろに大学進学とともにスマフォのヘビーユーザーとなった人が数多くいる。近年グローバルでも注目の中国の社会インフラでもあるスマフォアプリ進化をけん引してきた世代で、マイペース・楽観的など、従来の中国人消費者とは異なる特徴をもつ新世代として、その消費動向は注目を集めていた。
なぜマイペース・楽観的な若者たちが今、健康食品を買いあさるようになったのだろうか。この世代の価値観を読みとくことで、理由が少し見えてくるかもしれない。90後のひとつ上の世代は80後と呼ばれ、90後は彼らを「保守的、金銭が生きがい」などと軽蔑しているきらいがあった。
ところが、2015年ごろから社会人になった90後たちは996(朝9時出社夜9時退社週6日勤務)と揶揄される過酷な仕事環境に打ちのめされることになる。さらに、30歳が近づいてくると、親からの結婚・出産やマイホーム購入の圧力が容赦なく降りかかってくる。80後たちも経験した状況ではあるが、当時は不動産価格が現在ほど高騰しておらず同世代間の経済格差も小さかったため、心理的抵抗は比較的小さかったようだ。
しかし、90年代以降経済格差はかつてないほど拡大、大都市出身ではない一般家庭の90後が北京や上海で新たに家庭を構えるのは至難の業と言われるまでになり、90後はいわゆる「理想と現実」のギャップに心を痛めることとなった。さらに追い打ちをかけるように、00後と呼ばれる更にデジタルネイティブ・更に個性的な、90後の価値観によれば「よりクールな」世代が続々と社会に参入して来ている。これらの若い世代の突き上げを不安に感じている90後が多くいることは、オンラインの流行語からも読み取れる。
自らの健康への不安とサプリで取り繕う健康
これらの心理的なストレスに加え、デリバリー中心の不健康な食生活や残業・夜更かしなどの身体へのダメージが重なったためか、90後の一部にはストレス症状が顕著に現れるものが出始めた。抜け毛・睡眠不足・胃痛・慢性疲労などである。これらの症状が自嘲を込めてインターネット上で共有されると、実際には症状が現れていない同世代の不安を煽ることにも繋がった。下記添付画像は健康診断の結果を見るのが怖いと感じる人の各世代における割合を示したものだが、90後が自身の健康に自信が持てない様子がわかる。
90後の世代がこのような複雑な心理状況を持つ90後世代は「一边作死一遍养生」と形容される独特な行動を取るようになった。「作死」とは危険を顧みず目立つためにカッコつけること、「养生」とは健康に良いことをすることという意味で、先述の文は「カッコつけるために命を削りながら、健康に良いことをして取り繕う」といった意味になる。
出典:镝数作成、2021年青年男女健康報告
90後の不安に対応するサプリ市場動向
2018年ごろから上述の状況が観察されるようになり、当然のように健康食品業界はこれらのニーズに敏感に対応した。90後はSNSマーケティングのメインターゲットで、特にこの年代の女性は小红书(RED)のコアユーザーの一部である。90後に老化防止の重要性を訴え消費を喚起することのほか、購買に直結にする人気アイドルの起用やKOLの大量登用など、コスメ製品と似たマーケティング戦略が展開されている。現状中国ローカル・オーストラリアのブランドの認知度が高いが、欧米大手や中国ベンチャーなどの新規参入も続いており競争は激化している。日本勢で健闘しているのはFANCLで、化粧品を通して無添加のコンセプトの認知度が高く支持を集めているようである。
出典:daxue consulting作成THE VITAMIN AND HEALTHSUPPLEMENTS MARKET IN CHINA
中国でのオンラインマーケティングというと、小红书や抖音でKOLを使用して…と手段のみが独り歩きして語られることが多いですが、対象とするユーザーの世代や購買行動の背景を理解することで、より効果の高いマーケティング戦略を企画するための助けになると考え今回の記事を執筆しました。ご参考になれば幸いです。
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この記事は各種公開情報・ibg経験等を基に、ibgが内容を作成したものです。