はじめに
2022年3月5日、十三届全国人民代表大会五次会議が開幕した。(3月11日に閉幕)
開幕日の午前中に、李克強首相が1時間弱の時間をかけて《2022年政府工作報告》を発表した。本報告はマクロ経済・貧困問題・環境問題・対外開放といった多くのトピックが網羅されたもので、大まかには以下の構成となっている。
・過去1年間の成果
・2022年の目標・方針
・その他
「医療衛生サービス能力の向上(中文:提高医疗卫生服务能力)」に関しては、14の重点項目が提起された。これまでの政府方針と大きな変化はないが、改めて首相より発表された内容であるこちらを紹介したい。
2022年 医療衛生に関する14の重点項目
以下14の重点項目(青字)と、それに対するibg補足説明(黒字)を記載する。
(※14はあくまでibgが整理した結果であることを留意いただきたい)
【1】住民医療保険と基本公共衛生サービス経費について、1人あたりプラス30元・5元の補助財政を政府が出す。また基本医療保険について、省レベルでの管理を推進する
・一文目は理解しやすいと思う。現状、加入する公的保険(都市従業員基本医療保険制度、城郷住民基本医療保険)によって自己負担額が大きく異なるため、今回の財政投入によって少しでも格差を埋めたいというのが政府の意図だろう。ちなみに城郷住民基本医療保険加入者に対する政府負担最低額は、現状年間580元/人である。
・二文目について。医療保険基金が市レベルで管理されている地域も多く、医薬品費や検査費の償還比率/費用も市レベルとなっている。それを省レベルでの統一基準や基金プール管理にしようという内容だ。
【2】医薬品や高額医療用消耗材の集中帯量購買を推進する。同時に生産供給も確保する
・2021年09月29日に国務院から発表された《"十四五"全民医療保障計画の通知》を思い出してほしい。この5か年計画(2021~2025年)で明記された数値目標(医薬品:500種以上、高額医療用消耗材:5種以上)の実現へ向けて、VBPを継続することが改めて李克強首相より強調された。
【3】医薬品・ワクチンの品質安全監督管理を強化する
【4】医療保険支払方式の改革を深化させる
・2021年11月26日に国家医療保障局より発表された《DGR/DIP 支払方式改革 3か年アクションプランの通知》を思い出してほしい。昨年までパイロット試行されてきたDRG/DIP支払方式をより一層改善し、2025年までに全国統一の規範化された算出・支払方法を構築することが、今回改めて強調された。
【5】医療保険基金の監督管理を強化する
・《"十四五"全民医療保障計画の通知》で謳われた、「経済発展に応じた公的医療保険の支出」や「デジタル・ビックデータ等を活用した基金の監督管理」のことを指す。
【6】省跨ぎの医療費直接精算制度を改善する
・入院費だけでなく、今後は外来診察費の直接精算に向けた全国統一ルールが導入されていくと考えられる。
【7】医薬品の償還対象を全国で統一する
・PRDL(Province Reimbursement Drug List)を思い出してほしい。2018年までは、NRDLに対する15%分の調整が省市に認められていた。2019年7月から地方の医療保障局によるリスト調整が禁止されており、2022年6月末までにPRDLのみへ収載されている品目の調整が完了する予定だ。
【8】予防を主とした、健康中国活動をより深く推進する
【9】心血管病や癌等の疾病予防サービス・保障レベルを高める。希少疾患薬への保障を強化する
・希少疾患薬については、2021年NRDL国家談判で70万元/瓶から3.3万元/瓶へ値下げし収載されたヌシネルセン(製品名:スピンラザ)が思い出される。年間治療費が30万元を超える希少疾患薬が今後NRDL収載されるか、引続き中国政府の対応を注視していきたい。
【10】疾病予防コントロールネットワークの健全化。公共衛生チームの構築。重大疾病観測アラート機能、追跡機能、緊急処置能力の向上
【11】公立医院改革の深化
【12】医療機関の収入・サービスの規範化。婦人幼児科・精神衛生・老年医学等といった不均衡なサービスの改善
【13】中医薬の振興・発展の支持。中医薬総合改革の推進
・《健康中国2030》の第9章でも中医薬の発展が打ち出されていた通り、これは“国策”と言えるものだと考えられる。一方、中成薬については各地方でのVBPも広がってきており、変化しつつある外部環境を注視していきたい。
【14】分級診療の推進。国家・省級のエリア医療センターの早期建設。優秀な医療リソースの地方への供給推進。基層での予防治療能力の向上
さいごに
上記で紹介した14の重点目だが、李克強首相の発表では全体の中の1つとして青字箇所が話されただけであり、各トピックの詳細は話されていない。
しかしながらこの場で話されたということは、今後国務院配下の政府部署からこれらトピックの施策が打ち出されると想像される。
以上
この記事は各種公開情報・ibg経験等を基に、ibgが内容を作成したものです。