はじめに
コロナウイルスが広がった2020年前半から、各自の健康管理状態を確認するための携帯アプリが中国の各都市で運用されている。私の住む上海では、“随申办”が使用されている。(以下はアプリ画面)
この“随申办”アプリだが、数か月前から各自の健康管理状態だけでなく、納付した公的医療保険料・積立年金額・積立公積金(住宅購入費)・健康情報といった情報も確認することが可能だ。(ちなみに本アプリだけでなく、このような情報を一括確認できるアプリは多く存在する。)
話は変わって、こちらのスライドは中国政府の目指す地域医療体制を纏めたものだ。
既に数年前から各パイロット都市で、住民医療情報の一元管理は進められている。
デジタル化+医療健康” 政府の最新方針
上記に紹介したのは、中国で進む情報化対応の一部分だ。
2020年12月4日、《“デジタル化+医療健康”を更に推進するための“5つの一(いち)”に関する通知》が発表された。
これは、“デジタル化+医療健康”に関する中国政府の最新方針といえる内容だ。
本通知は、第一編~第五編(その中に第1章~第14章)で構成されている、読み応えのある内容だ。
第一編:“一体化”共有サービスの推進
第二編:“一码通”融合サービスの推進
第三編:“一站式(ワンストップ)”精算サービスの推進
第四編:“一网办”政務サービスの推進
第五編:“一盘棋(全体)”防疫業務の促進
長文で恐縮だが、本内容の概略を日本語にしたので紹介したい。
关于深入推进“互联网+医疗健康”“五个一”服务行动的通知
第一編:“一体化”共有サービスの推進
1.オンライン・オフラインの一体化
・医療機関は現場(オフライン)での医療サービス改善を継続すると同時に、オンラインやビッグデータなどの技術を活用し、積極的に患者に利便性があり効率の良いサービスを提供する。またオンラインでの訪問指導や遠隔指導などを通して在宅での回復を実現していく。
・オンライン病院は実際の医療機関との間でデータ共有や業務協力を行い、オンライン/オフラインの隙間が生じないよう連携する。
・基層市場においてもオンライン病院を活用し、資源を基層市場に配分するなど分級診療を進めていく。
・老人や子供など情報弱者のために、オンラインサービスの利便性とともにオフラインでのサービスについては配慮を重視する。医療機関の予約方法を複数設け、家族/友人/家庭医師などによる代行を可能とする。現場での予約、支払、検査結果印刷などは有人窓口での対応も可能とする。
2.医療サービスプロセスの改善
・健康診断・再診・投薬指導・心理・健康状態の評価・予防接種予約・電子処方管理・医薬品配送・訪問指導・家庭での心電測定・社区での転院予約などの業務について、オンラインでの実施を目指す。
3.地域データの共有
・安全性とプライバシー保護を前提として、病歴/検査結果/影像資料などの医療健康データ(电子健康档案)を省域内で閲覧できるようにする。国家プラットフォームとの連動も継続して強化する。
・京津冀、长三角、成渝など条件に合致する地域から積極的に展開する。
第二編:“一码通”融合サービスの推進
4.業界内で“一码(1コード)通用”
・“一院一卡(病院ごとに1カード)、相互の使用不可”状態を解消するため、居民电子健康吗を推進していく。実名制で、身分証番号をメインの索引、その他証明書番号を補助とする。居民电子健康吗で医療機関の受診カードの代用ができ、診療サービス/公共衛生サービス/慢性疾患管理/オンラインデータ検索/健康教育/血液管理などの分野での使用を拡大していく。
・老人/子供などのために、オフラインでの有人サービスも継続する。
5.部門を跨いだ“多吗融合”推進
・人民の利益を第一に考え、部門間の協力を強化する。居民电子健康吗を金融機関支払コード/市民カードなどと“多吗融合”し、相互のデータやり取り、業務の連携により利便性を向上させる。
・“多吗融合”により遡った情報管理ができるため、“三医联动”における診療記録/費用リスト/電子処方/電子病歴/医療費用精算記録などの監督管理においても有効である。
6.健康吗“一码通行”の実現
・全国一体化政務プラットフォームを利用し、防疫健康吗の統一政策、統一標準、全国共通の一码通行を実現する。これにより地区を跨いだ移動者の健康吗情報を各地域で共有できる。
・高齢者といったスマートフォンの使用ができない人々については、身分証などで代替することを可能とする。
第三編:“一站式(ワンストップ)”精算サービスの推進
7.“一站式”即時精算の実施
・セルフサービス機械/オンラインサービス/移動端末等複数の方法により、オンライン/オフラインで精算を行い、精算場所の混雑防止につなげる。
・医保/民間保険/銀聯/第三者支払機関との提携を強化する。
8.“インターネット+”支払政策の実施
・オンライン/オフラインでの医療サービスに対して公平な医保政策を実施し、待遇を平等にする。慢性疾患から開始し、徐々に“インターネット+”医療サービス支払の対象範囲を拡大し、地域の医保規定に則った精算を行えるようにする。
第四編:“一网办”政務サービスの推進
9.政務共有サービスの拡大
・衛生健康業界で既に情報が共有されている出生証明/死亡証明/人口データ/医師登録データ/看護師登録データ/医療機関営業登記データなどに加えて、核酸検査データなども共有することで、部門/レベルを超えた政務サービスの処理を可能にする。
・地域の健康データプラットフォームと各級政務データプラットフォームをつなげ、一度の処理で多くの手続きを行えるようにする。(出生した際には、出生医学証明/予防接種/戸籍登録/医保届出/社保申請などについて“一度の処理で多くの証明書の手続きをし、一か所からの送付”を可能にする。)
10.利便性のある情報検索サービス
・官方HP、公式アカウント、区域全民健康データプラットフォームや政務サービスプラットフォームなどの情報を“デジタル化+医療健康”関連インターネットページにまとめることで、健康管理サービスなど権威のある情報を探しやすくする。
・ワクチンの出荷/流通/貯蔵/使用データなど全過程を記録することで、摂取する際にワクチンの来歴などを検索し情報を得ることができる。
11.基層市場の負担軽減を推進
・“一数一源、一源多用、统一标准、整合共享”の原則に基づき、国家級或いは省区域全民健康データプラットフォームを利用して、各地で电子健康档案を応用し、紙ベースのデータを徐々になくしていく。基層医療機関が報告表を作成する際はできる限りデータシステムによる自動作成とし、手動での入力や紙ベースの報告を減少させる。
第五編:“一盘棋(全体)”防疫業務の促進
12.早期の監視測定警報システムの強化
・国家および省(区、市)の、感染病に関する監視測定警報プラットフォームの早期建設が求められている。公共衛生機関、医療機関、第三者検査測定実験室からインターネット上の世論情報に至るまでカバーし、各機関で測定データや検問所での異常症状、特定医薬品販売などを共有する。
・原因不明の疾病や異常健康事件に対する監視測定システムを強化する。
13.防疫措置の強化
・各地の伝染病分析プラットフォームを整備し、衛生健康や関連部門の情報を連動、ビッグデータやAI技術を活用することで、重要グループの検査や農工接触者の追跡などを行い、感染拡大リスクを抑える。
・国家疾控センター核酸検査の統一プラットフォームを利用し、各地のデータを連動させることで、検査予約/データ送信/結果検索/情報共有など全過程での管理を共有し、低リスク地域の人々が正常に区域を跨いだ移動ができるようにする。
・区域内の疫情対応可能医療機関/人員/ワクチン/設備/物資など重要な資源について動態管理し、可視化する。
14.防疫に関する問い合わせ業務の強化
・医療衛生機関、条件に合致する第三者機関はインターネット問合せプラットフォームを建設し、健康評価/健康指導/受診指導/心理的アドバイス/中医薬予防治療などに関して、良質で利便性の高い問合せ業務を提供する。それにより実際の医療機関への人の集中を回避し、感染リスクを下げる。
さいごに
今回紹介した《通知》を参考に、中国医療市場の将来を検討することも可能だ。
今後の中国ビジネスを検討する際の参考になれば幸いです。
以上
この記事は各種公開情報・ibg経験等を基に、ibgが内容を作成したものです。